離婚時の年金の分割には厚生年金分割(合意分割)と3号分割があります。
1.離婚時の厚生年金分割
離婚当事者の婚姻期間中の厚生年金の被保険者期間に係る標準報酬を、当事者間で分割するものです。年金額そのものを分割するわけではありません。
対象となるのは平成19年4月1日以降に成立した離婚ですが平成19年4月1日以前の厚生年金の被保険者期間に係る標準報酬も分割対象となります。
被保険者期間中の双方の標準報酬合計額の5割を上限として、当事者の協議で分割割合を決め、年金事務所に分割の請求を行います。合意がまとまらない場合は、離婚当事者の一方からの請求で裁判所が分割割合を定めることができます。
分割の効果
分割を受けた人(一般的には「元妻」)は、厚生年金受給資格(老齢・障害等)に応じた年金を受給しますが、老齢の年金を受給できる年齢になるまで老齢厚生年金は支給されません。老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていて、1年以上厚生年金の被保険者期間があるときは、報酬比例部分の支給開始年齢になったときから支給され、厚生年金の加入期間が1年未満であれば65歳から支給されることになります。
受給資格期間を満たしていなければ、分割を受けた年金を受給することはできません。
年金受給権が発生している場合(すでに年金を受けている場合)は標準報酬の改定請求月の翌月から分割後の年金額に改定されます。すでに年金受給中で、離婚した場合、遡っての分割はありません。将来に向かってのみ分割の効力があります。
分割を行った元配偶者(一般的には「元夫」)が死亡しても、分割を受けた人の厚生年金の受給には影響しません。
分割は厚生年金額(報酬比例部分)のみに影響し、基礎年金額(国民年金)には影響しません。原則として、分割された被保険者期間中の標準報酬は厚生年金額の計算に含めますが、年金受給資格期間等には算入されません。
分割例
分割前の標準報酬総額 | 分割割合 2分の1の場合 分割後の標準報酬総額 |
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第1号改定者(渡す人) | 3,000万円 | 2,000万円 |
第2号改定者(受ける人) | 1,000万円 | 2,000万円 |
2.第3号被保険者期間についての分割(3号分割)
被扶養配偶者(国民年金の第3号被保険者)がいる厚生年金の被保険者(特定被保険者)が負担した保険料は、夫婦が共同して負担したものとの考えに立って設けられた制度です。
被扶養配偶者(一般的には「元妻」)であった人からの請求により、離婚等した場合に、特定被保険者(一般的には「元夫」)及び被扶養配偶者の標準報酬を特定被保険者の厚生年金の被保険者期間中の標準報酬に2分の1を乗じて得た額に分割することができます。年金額そのものを分割するわけではありません。
離婚等とは、離婚、婚姻の取消、事実婚の解消をしたと認められた場合、離婚の届出をしていないが、事実上離婚したと同様の事情にあると認められた場合の4つです。また、離婚等した場合の前月までが分割の対象となるため、平成20年5月以降に離婚等した場合に3号分割を行うことができます。
特定被保険者(被保険者または被保険者であった者、標準報酬が改定(減額)される人のこと)が障害厚生年金の受給権者であって、特定期間(特定被保険者が被保険者であった期間で、かつ、その被扶養配偶者がこの特定被保険者の配偶者として第3号被保険者であった期間のこと)の全部がその額の計算の基礎となっている場合は3号分割の請求はできません。
障害厚生年金は受給権者保護の要請が強い給付で、当事者の合意がない3号分割で障害厚生年金額を低下させるのは適当でないという趣旨からです。特定被保険者が障害厚生年金の額の計算となる被保険者期間を除いて3号分割を請求することができます。
分割の効果
分割を受けた被扶養配偶者(一般的には「元妻」)は自分自身の厚生年金受給資格(老齢・障害等)に応じた年金を受給しますが、合意分割のときと同様に自分自身が年金受給年齢になるまでは老齢厚生年金は支給されません。分割された特定被保険者(一般的には「元夫」)が死亡しても、自分自身の厚生年金受給に影響しません。
分割は厚生年金(報酬比例部分)の額のみに影響し、基礎年金(国民年金)の年金額には影響しません。
原則として、分割された被保険者期間に係る標準報酬は厚生年金額の計算に含めますが、年金受給資格期間等には算入されません。
年金受給権が発生している場合(すでに年金を受けている場合)は標準報酬の改定請求月の翌月から分割後の年金額に改定されます。すでに年金受給中で、離婚した場合、遡っての分割はありません。将来に向かってのみ分割の効力があります。
離婚分割と3号分割の主な相違点
離婚分割 | 3号分割 | |
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施行時期 | 平成19年4月1日 | 平成20年4月1日 |
請求できる事由 | 平成19年4月1日以後に(1)離婚した場合、(2)婚姻の取消をした場合、(3)事実婚の解消をしたと認められた場合 | 平成20年5月1日以後に(1)離婚した場合、(2)婚姻の取消をした場合、(3)事実婚の解消をしたと認められた場合、(4)離婚の届出をしていないが、事実上離婚したと同様の事情にあると認められた場合
※離婚等した場合の前月までが分割の対象となるため、平成20年5月以降に離婚等した場合に3号分割を行うことができる。 |
分割の対象 | 婚姻期間中の厚生年金の標準報酬(結婚していた過去の期間まで遡る。) | 婚姻期間のうち、平成20年4月1日以後の、当事者の一方が第3号被保険者期間中の相手方の厚生年金の標準報酬
当事者の一方:被扶養配偶者(一般的には「元妻」) 相手方:特定被保険者(分割して渡す人のこと、一般的には「元夫」) |
分割の方法 | 婚姻期間中の標準報酬、賞与の総額が多い人から、少ない人へ分割する。 | 被扶養配偶者の第3号被保険者期間中に厚生年金の被保険者(特定被保険者)であった人から第3号被保険者(被扶養配偶者)であった人に対して標準報酬を分割する。 |
分割の割合 | 当事者同士の合意又は裁判手続により定められた年金分割の割合(5割を上限) | 自動的に2分の1 |
請求者 | 当事者の一方(夫、妻どちらからも可能) | 被扶養配偶者(第3号被保険者であった方)のみ |
請求できる期間 | 離婚したときから2年以内 | 離婚したときから2年以内 |